Taylor Deupree によるアルバム解説
私は自身のレーベルHappyを通して2004年の夏に東京でnobleの久保さんと出会いました。HAPPYは「型にはまらないジャパニーズ・ポップス」への私の長年の関心の結果で、また私のフラッグシップ・レーベル12 kで試みているミニマルなマイクロ・サウンドとは全く異なる方向性を示すものでした。Happy立ち上げ当時には私自身ほとんど認識していませんでしたが、Happyと12kの世界はすぐに溶け合うでしょう。
nobleからリリースされた映糸のアルバム"awaawa"を聞いて、私は彼女らのサウンドが持つ美しさ、シンプルさ、および控え目ながらも実験主義なところに心を打たれました。私は、彼らの奏でるトラディショナルな楽器と、淡く脳裏にとどまるmujika easelの歌声が、ユニークであり魅惑的だと感じました。ソースとしてのアコースティック・サウンドへの関心の高まりから、私は久保さんに、バンドのオリジナル音源をデジタル・マニピュレーションの素材として使い、またゼロからアルバム"awaawa"を再構築する今回のプロジェクトを提案しました。 それは私にとって、よりポップ・ベースのプロダクション技術を探る良い機会であったとともに、私自身のサウンドを新しい方向に進める切っ掛けともなるものでした。
"Every Still Day"("そして、欲する"の歌詞から引用したタイトル)は、2004年の夏の終わりにスタートし、すぐに私のこれまでの創作活動の中で最も挑戦的なプロジェクトの1つになりました。ポップ・ミュージックという枠組みを漠然と意識しながら、私は映糸のオリジナルの良さと私自身の新たな解釈が同時に存在するようにバランスを取らなければなりませんでした。映糸はオリジナル・アルバムに収録したそれぞれの曲の全インディヴィジュアル・トラックだけじゃなく、それらの曲の別テイクやアルバム未使用のアウト・テイクも快く提供してくれました。それらの素材は気が遠くなるほど膨大でしたが、とてつもなく深いものでした。これにはある悲しみの感覚、映糸が活動を休止してしまったことを知り、この作業がある種の悲歌になってしまったと私が認識した事が加わっていたのかも知れません。
"Every Still Day"における私の初期のコンセプトは、アコースティックでフリー・フォームな映糸の音楽を取り出し、それらを二つの相反する方向性で引き延ばす事でした。一方は、これらに更なる構造と"ポップ"センスを加える事、もう一方で私は自身のデジタル実験主義のスタイルをブレンドする事、この二つの事を試したかったのです。与えられた音素材の莫大な可能性から、私は主な器楽の編成をそのままに残すこと、オリジナルの楽曲を直接的に参照することを選び、あまりに多くの選択肢や技術的な可能性に惑わされないように努めました。これに、私は音のレイヤーとデジタル処理を施した音の断片を加え、更に新しいアレンジを試みました。オリジナル・トラックに加えて、映糸のライブ音源を素材にした3つのインタールードを作りました。これらの小品は、アルバム中にそれぞれイントロ、インタールード、アウトロとして収められています。私はまた、友人であり、コラボレーターであり、12kのアーティストでもあるサンフランシスコ在住のギタリスト、クリストファ−・ウィリッツに、彼の代名詞でもある階層状のギター・テクニックを用いたギター・パーツを提供してくれるよう頼みました。彼のギターは"note1"に登場します。
自身の録音物を自由に操る事を私に許可してくれた映糸のメンバー達に、私は最上級の感謝の意を称します。私自身アーティストとして、己の作品を手放し、他人がそれに手を加えるのを許す事がどれくらい難しい事なのか知っています。このような機会を得る事が出来、私はとても嬉しく思います。この作品は、私自身の影響からの見解でアプローチした"awaawa"のあるユニークな解釈を提案するもので、そしてついには、私のこれまでのアーティスト活動の中で最もエキサイティングで重要なプロジェクトのひとつになったと信じています。映糸のメンバーにも同じように新しい観点でこれらの曲を楽しんで聴いてもらうこと、また、彼らが以前気付いていなかった音の関係性や要素を発見してくれること、それが私の願いでありました。そしてその願いは叶ったと思います。(なぜなら、いくつかの初期のデモ・ヴァージョンを聴いて、彼女らは映糸を再始動する事を決めました。)
私がこの作品"Every Still Day"で経験した全ての挑戦、興奮、創造力について述べてみましたが、私の今回の作品は、単に見知らぬ者の観点から映糸の内部を覗き見た事であり、オリジナルの楽曲や演奏が持つ美しさは決して改良することができないと確信しています。
Taylor Deupree
April, 2005
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