原 雅明氏によるアルバム解説:
旧東ドイツの都市であったライプチヒは、ベルリンとはまた違う空気をまとった音楽を輩出してきた。最近の例でいえば、ダブステップ以降のレゲエ・サウンドとして注目されたレーベルJAHTARIや、テクノ/ハウスのレーベルでありアーティストのコレクティヴとしても注目されるORTLOFFのサウンドが、個人的には印象深い。ストイックでモノトーンなベルリンのサウンドに比べて、ライプチヒからはジャンルを問わず多様性を孕む絶妙に交錯したサウンドが聞こえてくる。この都市から登場したPraezisa Rapid 3000のサウンドもまたそうだ。
Praezisa Rapid 3000は、Simon 12345、Devaaya Sharkattack、Guschlingの3名から構成されたバンド/ユニットだ。ギターやキーボードなど数々のアナログ楽器と、ラップトップとシンセサイザーを組み合わせた、ポスト・ロックやエレクトロニカの影響下にあるエクレクティックなサウンドを、2012年にリリースされたファースト・アルバム『314159265』では聞かせた。
それに続く本作『Miami/Mumbai』は、オリジナル楽曲6曲に、その楽曲のリミックス4曲、それにインタルード的な1曲の計11曲 が収められた構成だ。リミキサーには、LAのビート・シーンの要でありサン・ラ主義者のラス・G、日本からは新しい感覚の横断的な電子音楽アルバム『UNBORN』で注目された服部峻と、nobleから良質なリリースを重ねているSerph、そして、UKきってのエクスペリメンタルなダンス・ミュージック制作者HeatsickことSteven Warwickの4名が参加している。そして、マスタリングをLOW END THEORYのDaddy Kevが担当している。
Kevのマスタリングの影響も大きいと思うが、前作よりもドラムとベースが強調され、それがサウンドの骨格となって、エクレクティックな要素を引き立たせることにもなっている。様々な楽器やサンプリングを駆使していることには変わりがないが、そのサウンドに一本筋が通った印象を強くした。また各リミックスも、それぞれが抽出したPraezisa Rapid 3000のサウンドが、それぞれの個性を見事に反映していて聴き応えがある。
マイアミとムンバイという人を喰ったような、しかし何となく納得させてしまうアルバム・タイトルだが、調べてみたら、ほんとうにマイアミとインドのムンバイを結ぶ直行便というのが存在していて、東京在住の日本人の僕は、その2都市を結ぶことに勝手に何だか理由は分からないがワクワクする気持ちを覚えてしまったのだが、ライプチヒ在住のドイツ人たちも同様の感情を抱いてこのタイトルを付けたのではないかと、これまた勝手に想像している。要は、そうした勝手な想像が尊重された音楽を彼らは作ろうとしていて、僕はその試みを支持したいのだ。
原 雅明 |