N-qia『fantasica』
リリース記念インタビュー

(インタビュー・テキスト:金子厚武)



―まずはN-qia結成の経緯から話していただけますか?

Serph: 『vent』を出して間もない頃に、NozomiからMySpaceで「歌わせてください」っていうメッセージが送られてきたんです。「じゃあ、声を送ってください」って返して、何回かやりとりをして、レコーディングするようになったっていうのが最初の流れです。

―声を聴いて、「この人とだったらやってみたい」と思ったわけですか?

Serph:そうですね。声質が好みだったので、試しにやってみようかなって。プレーンというか、透き通っているというか、あんまり癖が出にくい声だなって。あと高音が出やすいのもよかったし、あんまりキャラクター性が濃くないというか、自由に曲に合わせて変化する感じがあって、そういうところもいいなって。

―NozomiさんのN-qia以前の経歴を教えてください。

Nozomi:地元が福岡で、もともとボイトレに通ってたんですけど、上京して、東京校に転籍したんです。ただ、先生が変わっちゃうと、指導も変わっちゃうので、すぐにやめちゃって、その後はネットで探して即席バンドを組んでみたり、いろいろやってました。でも、結局就職をしちゃいまして、一旦音楽をやめたんです。で、3~4年ブランクがあって、また音楽やりたいなって思ったときに、MySpaceで彼の音楽を聴いて、「この人だ」って思ったんです。それで、すぐにメッセージを送りました。

―昔から歌手を目指していたわけですか?

Nozomi:「メジャーデビューするぞ」とか、そういう意気込み的なものはなかったんですけど、インディーレーベルからCDを出したいとは思ってました。なので、東京に来たばっかりのときはレーベルを探すために、ヴィレッジヴァンガードに行って、そこに置いてあるCDの裏側のクレジットをチェックしたりしてました(笑)。

―Serphの音楽に出会って、「この人だ」と思ったのは、どんな部分を魅力的に感じたからなのでしょうか?

Nozomi:単純に、すごいなって思いました。一人の方がこんなにすごい……すごいとしか言いようがないんですよね(笑)。仕事行って帰ってきて、ずーっと毎日聴いてました。私が一番再生回数に貢献してると思います(笑)。

―もともとエレクトロニカがお好きだったんですか?

Nozomi:いや、「エレクトロニカ」っていうのをちゃんと知ったのは東京に来てからだし、アーティスト活動としてやってきたジャンルはホントにバラバラです。ただ、曲を聴いたときに、自分がメロディーを描けるか描けないかっていうのが私の中の基準で、彼の曲はそれにぴったりだったんです。なので、最初のメッセージで、「“feather”で歌わせてくれ」って送ったんですよ。それはまだ実現してないんですけど(笑)。

―好きなボーカリスト、影響を受けたボーカリストとしては、どんな名前が挙がりますか?

Nozomi:「この人」っていうのはあんまりなくて、私は自分が歌い手なので、自分の音楽さえちゃんとやれればいいやっていう、基本的にはそういう考え方なんです。なので、自分が自由にメロディーを描けるように、その鍛練としてインストを聴いたり、自分の好きな歌ものの曲があったら、それを完コピすることで、自分の即興に役立てたりとか、どうしてもそういう聴き方になっちゃうんですよね。音楽って自分を信じてないとできないと思うんです。彼と組んだときに、「この人のトラックがあれば、私絶対デビューできる」って思ったんですよ。「これを絶対手に入れたい」っていう、そういう強い意志がないと、音楽ってできないんです。

―Serphさんとしては、Nozomiさんの歌声に魅せられたものの、最初の頃は自分の音楽に人の意見が加わることに拒否反応があって、かなりやりあったそうですね。

Serph:最初はトラックを歌もののために作るっていうこととか、「曲を提供する」っていうことも嫌で、怒りみたいなのがありました(笑)。でも、やるならいい作品にしたいので……レコーディングはホント喧嘩しながらだよね?

Nozomi:どっちも我が強いので、譲らないんですよ。なので、未だにレコーディングになると喧嘩してます(笑)。

Serph:でも、やってるうちに「この2人なら史上最高の歌ものができる」みたいに思えるようになったんです。

―Nozomiさんは特別ジャンルで音楽を聴くわけではないとのことでしたが、だとすると、2人はどんな部分をシェアしていて、N-qiaとして活動できているのだと思いますか?

Serph:享楽的というか……享楽的なんだけど、美意識もある。楽しいのが好きっていうか、心を開いてる状態で音楽をしたいってところが一番の共通点なのかな。

Nozomi:あとはやっぱり音楽に対するこだわりが強いっていうところだと思います。Serphに対しても、N-qiaに対しても、ストイックさはすごく似てると思いますね。

―実際の曲作りはどのように行われているのでしょうか?

Nozomi:ほとんど即興なんですよ。「ここがサビで」みたいな話は全くせずに、「今日はこの曲で録ろうか」「やりましょう」みたいな感じで。

―Serphのトラックは展開がすごく多かったり、わかりやすい歌もののトラックでは当然ないので、そこに即興で歌を乗せるというのはかなりの難易度な気がするのですが。

Nozomi:出だしだけ固まれば、その先のビジョンは自ずと見えてくるので、「ここにメロディー、ここにコーラス、ここに音を足してもらう」とかを全部彼に伝えます。なので、まずは歌い出しをビシッと固めて、あとは何回かループしてもらって、「じゃあ、いきまーす」って、録っちゃう感じですね。

Serph:Nozomiはトラックメーカー的な感覚を持っているというか、トラックの全体を把握して、構成を作れるんです。Serph的な感覚というか、次々と展開させながら、それをちゃんとまとめることができるっていう、そこは共通点ですね。なので、構成を把握して、即興ができるし、なおかつ全体像も見えてるっていう、それはすごいなって思います。

Nozomi:「自分が聴いて心地いいと思う状態に持って行きたい」っていうのがあるんですけど、彼からすると、せっかく作ったのに、「ここの音うるさいから外して」とか言われるのが、頭に来るんだと思うんです。なので、そこで「これがないとダメ」「いや、絶対要らない」みたいに喧嘩するんですけど(笑)、「一回だけ外して聴いてみて」って言うと、「確かに要らないね」ってなったりしますね。

Serph:最初はホントに「自分の作品はこれで完結してる」っていうこだわりがすごく強かったので、もめることも多かったんですけど、レコーディングを重ねるたびに、N-qiaが大事になっていったというか、本物になっていった感じですね。

Nozomi:まあ、やっぱり彼のトラックに歌を乗せるのは基本的に難しいんですけど、その分やりがいがあるんです。単純なトラックではないけど、その分自分を強くしてくれるし、想像力を掻き立てられる。ただ、曲の後半になればなるほど難しくて、前半はスーッと録れるんですけど、Serphの曲って長いし、後半になればなるほど複雑になるじゃないですか? なので、いつも後半は結構苦戦するんですけどね(笑)。

―初期は国内外のネットレーベルから次々に楽曲を発表していましたね。

Nozomi:初期はホントに新しい曲を一曲アップするたびにお声がかかるような状態だったんです。なので、3か月に一枚くらいのペースが2~3年続いて、私は平日働きながら、土日に彼の自宅でレコーディングする感じだったので、通うのも大変だったし、正直結構ハードで。なので、やり始めたらブワーって進んで、あっという間に時間が過ぎていった感じなんです。もちろん、嬉しかったんですけど、あまりにも量が多くて、途中でグダグダになってきちゃった面もあって……なので、一旦休憩したいなっていうのもあって、今回出すまでには時間がかかっちゃったんですけど。

―2013年にVirgin Babylonから『Fringe Popcical』を出すまでは、Serphという名前を出さずに活動していましたよね。

Nozomi:当時って、『Vent』がすごく売れてた時期じゃないですか? なので、私としては、下積みじゃないですけど、「今のうちに追いつかないと」と思って、それで来たオファーは全部受けるようにしたっていうのもあるんです。とりあえず「N-qia」っていう名前を知ってもらって、音楽を聴いてもらわないと話にならない。なので、まずは地味に積み上げていこうっていうのが私の中ではあったんです。

―その結果として、実際にN-qiaの名前は国内外に広まって、GRIMESのようなビッグネームにもピックアップされました。彼女はN-qiaについて「中田ヤスタカ+Cocteau Twins+パプリカ」と形容していましたが、ちなみに、実際にこの3つのどれかって影響源になってたりしますか?

Serph:……そうでもないですね(笑)。中田ヤスタカは結構好きですけど。

Nozomi:私もCapsuleは聴いてました。パプリカも面白かったですね。

―GRIMESがSpotifyのプレイリストにも入れていた“shootingstar”は、今年の夏にユニクロのTVCMにも起用されましたが、2人にとって想い入れの強い曲だと言えますか?

Serph:『Fringe Popcical』って、他の曲に関しては結構エクスペリメンタルなんですけど、キャッチーでポップな面も見せておこうってことで、「アタマに持ってくる、とっつきやすい曲を」って作ったのが、“shootingstar”だったんです。なので、正直特別想い入れが強いわけではないんですけど、反響がすごくてびっくりしました。

Nozomi:どちらかというと、その前に出した『Audio Illustrations』でバーッと広がって、Virgin Babylonから出すきっかけにもなったので、想い入れは強いですかね。まあ、“shootingstar”の反響は意外でしたけど、新作はそれを受けて、ここぞとばかりにポップなものを入れたっていうのもありますね(笑)。

―『fantasica』の制作にあたっては、方向性や青写真はどの程度決まっていたのでしょうか?

Serph:瞬発的な刺激や新しさはあっても、結局聴かれなくなっちゃう曲じゃなくて、どの曲も何回も聴けるものにしたいと思いました。ポップで、とっつきやすいんだけど、ちゃんと中身があるものっていうのを意識して選曲した感じです。あとこの3年間でずっと考えてたのは、「次の盤こそ、ホントに勝負の一枚にしよう」ってことで。

Nozomi:それはよく言ってた。昔の曲って、自分でも聴かなくなっちゃうんですよ。でも今回の曲に関しては、自分でも聴いちゃうし、いいなって思うので、そこは大事かなって。

―曲作りの方法にも変化があったのでしょうか?

Nozomi:基本は今回も即興です。ただ、前までは一発録りで完結させてたんですけど、それじゃダメだなって、今回は何回も聴き直して、メロを修正したりもしたので、結構時間がかかりましたね。私しつこいんで、何回も言っちゃうんですよ。で、いつまで経っても終わらないから、彼がキレ出すっていう(笑)。「もう一回聴いてみて。ここ0.1秒ずれてない?」とか、すごいこだわっちゃうんで、キリがないっちゃないんですけど、OKラインまで持って行かないと、やっぱり気持ちが悪いじゃないですか? なので、「ホント申し訳ないんだけど、Live立ち上げてもらっていい?」って(笑)。

―完璧主義なところがあるんですね。

Nozomi:そうですね。なので、それをさせたときは、N-qiaは一回時間を空けて、「Serphを好きなだけ、ご自由にやってください」って(笑)。そうやってバランスを取らないと、お互いイライラしちゃうんで、そこは上手いことやってます(笑)。

―Serphさんから見ても、Nozomiさんのこだわりは相当なわけですか?

Serph:「どれだけグリッドに沿ってるか」とか、すごい厳しいですね。でも今回作って、Nozomiが本来持ってる声の一番いいところを出せたんじゃないかって思ってるんです。メロディーセンスもいいんですけど、プレーンというか、そういう声の魅力が一番際立つ制作ができたかなって。特に“lover’s rock”は、メロディーもすごくいいし、癖がないんだけど、意志というか、感情がすごくこもった歌い方をしてくれたなって思いますね。

―歌詞はお二人の共作だそうですね。

Nozomi:レコーディングをしながら一緒に作るんですけど、言葉がないとメロディーが作れないので、トラック、言葉、メロディーの順ですね。

―あ、それは意外です。メロディーが先かと思ってました。

Nozomi:言葉があれば、それをメロディーに変えられるんですよ。なので、お互いノートを持って、とりあえず言葉を書きためるっていう作業をして、あとは語呂合わせだったり、歌いまわしに合うのを入れていくっていう。

―歌詞の内容からは、『fantasica』というタイトルにも表れているように、ファンタジーやSF的な世界観が感じられます。

Serph:普通に巷にあるポップソングって、恋愛のことを歌ってたり、悲しいときはこう、嬉しいときはこうって、歌詞の内容がカチッとしてるじゃないですか? そうじゃなくて、もっと究極の逃避というか、ジブリのアニメーションじゃないけど、現実のことを忘れて、別世界に飛びたてるような歌詞っていうのは意識してて、それが結果的にファンタジックになったんじゃないかなって。

―今年はSerphとして『となりのトトロ』にオマージュを捧げた“Totoro Requiem”も発表しましたし、やはりあの世界観は背景のひとつになっているわけですね。Nozomiさんはどうお考えですか?

Nozomi:私は恋愛の曲とかも歌ってみたいと思いますけど(笑)、でもそれはN-qiaっぽくはないので、意味がないようにも見えるし、あるようにも見える、そういう歌詞の方がいいのかなって。

Serph:聴き手に任される余地があるっていのは、エレクトロニカっぽいかもしれない。

Nozomi:まあ、どうしてもSerphがファンタジックなので、N-qiaもファンタジック寄りになりますよね。

―でも、Serphも作品を重ねるごとに少しずつ変わっていったので、初期Serphのイメージを一番引き継いでるのは今のN-qiaかもしれない。それこそ、『vent』の世界観を一番直接的に引き継いでいるというか。

Serph:ああ、そうかもしれないですね。最高のトラックで勝負をした結果、そうなったのかもしれない。

―途中でおっしゃっていたように、「勝負の一枚」と考えていたからこそ、自分の最も得意なカードを切ったということかもしれないですね。実際に作品が完成して、その手応えをどのように感じられていますか?

Serph:僕的には、相当な満足感ですね。自分で聴き直して、客観的にいいなって思えるのは、今までの中でも一番かもしれない。「ファンタジックな歌ものが聴きたい」って思ったときに、「これを聴かないんでどうするんだ」っていう、そういう作品になってくれたら嬉しいですね。

Nozomi:私も大満足です。ホントに長い歳月を費やした、想い入れの強いアルバムになりました。



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